私は簿記3級資格を持っていますが、開業してから簿記学習では習わない実務がいくつかありました。
今回は元入金と事業主借、事業主貸を解説します。
元入金
「元入金」は「資本金」と似た勘定科目です。
「元入金」を最初に使う機会は開業時です。
話はそれますが、開業前に使った費用は開業費として計上できます。
「開業費」の説明はこちらをご覧ください。
account-it-dentist.hatenablog.com
開業資金として事業用口座に30万円を入金すると、仕訳は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 300,000円 | 元入金 | 300,000円 |
ここが「元入金」が「資本金」と似ている点です。
「開業資金」だけでなく自動車や商品などの現物を出資した場合にも、「元入金」を使用します。
「元入金」でなく、あとで説明する「事業主借」を使っても構いません。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 300,000円 | 事業主借 | 300,000円 |
しかしもう1つ「元入金」を使う機会があり、開業時と違い必ず使う必要があります。
それは決算後の繰り越し処理時(翌会計年度期首の前期繰越仕訳)です。
これから説明する「事業主借」と「事業主貸」は貸借対照表の勘定科目ですが、次期繰越しません。
しかし、かたや「元入金」は次期繰越します。
計算式は以下の通りです。
次期繰越の元入金
= 前期繰越(初年度は開業時)の元入金 + 事業主借 - 事業主貸 + (控除前)所得
開業初年度の決算後繰り越し処理だとして、仕訳としてはこのような感じになります。
(1行目のみ開業時仕訳)
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 300,000円 | 元入金 | 300,000円 |
事業主借 | 400,000円 | 元入金 | 400,000円 |
元入金 | 500,000円 | 事業主貸 | 500,000円 |
所得 | 2,000,000円 | 元入金 | 2,000,000円 |
元入金 | 2,200,000円 | 次期繰越 | 2,200,000円 |
2,200,000円
= 300,000円 + 400,000円 - 500,000円 + 2,000,000円
この通り「元入金」は毎年増減する点が「資本金」と異なるところです。
また「元入金」はマイナスになることもあります。
次期繰越の貸借対照表勘定がバランスしているか、念のため確認しましょう。
[次期繰越] 資産勘定(事業主貸を除く) = [次期繰越] 元入金 + [次期繰越] 負債勘定(事業主借を除く)
事業主借
「元入金」は開業時を除き期中で使う必要はないのですが、「事業主借」と「事業主貸」は期中で使用する勘定科目です。
簿記3級では習わない勘定科目ですが、それは個人事業主特有の勘定科目だからです。
個人事業主が事業とプライベートの間でお金が移動するときに使用するものだと理解してください。
まずは「事業主借」から説明します。
「事業主借」は、事業のお金をプライベートから融通してもらうイメージです。
具体例としては
- 事業資金を追加で事業用口座に入金する(資本金を増資するイメージ)
- 事業経費を事業用ではない個人の口座から振り込む
- 事業用口座に利息が入金される
といったものです。
取引先を接待し、食事代を事業用でないプライベートのクレジットカードで支払う仕訳は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
接待交際費 | 10,000円 | 事業主借 | 10,000円 |
事業用クレジットカードで支払った場合は「未払金」勘定ですが、引き落としされたタイミングで未払金を消し込みます。
プライベートのクレジットカードで支払った場合は、引き落としタイミングでの仕訳は不要です。
事業主貸
「事業主貸」は、プライベートなお金を事業資金から融通してもらうイメージです。
法人はたとえ社長一人の会社だったとしても自由に利益を引き出すことは許されない代わりに、法人から社長に役員報酬や役員賞与の形で法人から個人へ資金を移動することが認められています。
逆に個人事業主は本人への給与は認められていないものの、自由に利益を利用できます。
ただ、生活費などのお金は事業経費でないため、「事業主貸」を使います。
具体例としては
小規模企業共済の掛金が事業用口座から引き落とされる仕訳は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
事業主貸 | 10,000円 | 普通預金 | 10,000円 |
小規模企業共済の掛金は事業経費になりません。
確定申告での控除になりますので注意してください。
「事業主借」か?「事業主貸」か?迷うとき
「事業主借」にせよ「事業主貸」にせよ、事業外であることを表しています。
そのため、ともに貸借対照表科目ですが期末残高を次期へ繰り越しません。
私も開業して間もなくは、勘定科目に「事業主借」を使うべきか「事業主貸」を使うべきかよく迷いました。
しばらくするとパターン化してくるのでどちらを使うか迷わなくなりますが、今でもすぐには分からないのが、事業用口座に間違って入金もしくは出金した場合です。
(ちなみに出金は「事業主貸」、入金は「事業主借」を使います。)
ただ、私は「事業主借」と「事業主貸」を間違っても大きな問題ではないと考えてさっさと仕訳作業を終わらせることを優先しています。
私は税理士資格がないので責任をもてませんが、事業外であることを正しく認識していれば、税務署もその勘定科目が正しいかまで重要視しないのではないかと思います。
「事業主借」と「事業主貸」を迷う時点で事業外であると認識している訳で、迷う時間はもったいないと考えています。
ただし、事業に関する仕訳に対しては、同じ経費勘定だから何でもいいやというような態度では税務署からお小言をいただく可能性もある、と考えます。
今回は、簿記3級では習わない勘定科目である「元入金」、「事業主借」、「事業主貸」について説明しました。
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