事業で使用するための土地を購入しても、土地代を経費にすることはできません。
固定資産として「土地」勘定科目へ計上します。
簿記の学習でも出てきますが、固定資産と減価償却費について説明します。
固定資産とは
会計上、資産は
1. 流動資産
2. 固定資産
3. 繰延資産
に分類され、さらに固定資産は
2-1. 有形固定資産
2-2. 無形固定資産
2-3. 投資その他資産
と分類されます。
正確な定義ではありませんが、実務的に固定資産とは、販売目的で保有する資産でなく使用可能期間が1年以上で1組の取得価額が10万円以上のものと考えて構いません。
使用可能期間は法定耐用年数で判断するのが安全ですが、客観的に消耗期間を説明できるなら必ずしも法定耐用年数でなくても構いません。
取得価額とは、大まかに購入金額とみなしていいですが、家事按分前の金額となります。
10万円以上と記載しましたが、正確な定義は20万円以上です。
しかし、少し話がややこしくなるので、実務的には10万円以上と考えてここでは説明します。
「1組の」とありますが、例えばテーブルとイスをセットで購入した場合はこの単位を1組とし、テーブルとイスそれぞれで判定しません。
固定資産の勘定科目
上記の通り10万円以上の購入金額があっても、使用可能期間が1年以上でなければ固定資産ではありませんし、そもそも資産でなければ固定資産になりません。
宣伝に支払った金額が10万円以上であっても、それは資産でなく「宣伝広告費」として経費計上します。
簿記で学習したとおり、「固定資産」という勘定科目はありませんので固定資産はそれぞれ該当の資産勘定に計上します。
「建物」、「建物付属設備」、「土地」、「車両運搬具」、「工具器具備品」といったものがそれになります。
目の前に形がないためついつい忘れがちですが、ソフトウェアは無形固定資産です。
購入金額が10万円以上ででかつ1年以上の使用が見込まれるソフトウェアは固定資産であり、「ソフトウェア」という無形固定資産の勘定科目を用意して計上します。
ちなみに無形固定資産ではありませんが、10万円以上のパソコンは「工具器具備品」に計上します。
逆に取得価額が10万円未満または使用可能期間が1年未満の資産は、「消耗品費」勘定科目に経費計上できます。
減価償却費で経費計上する
固定資産を経費計上できないのか?という質問に対する答えは YES でもあり NO でもあります。
固定資産を経費化するには、簿記で学習したとおり減価償却するのですが、減価償却できる条件は経年で価値が減少することです。
減価償却できない固定資産の代表は「土地」です。
「電話加入権」もかつてそうだったので、現在でも貸借対照表(B/S)上残っているという方もいらっしゃると思います。
いまでは価値がないので、一括償却が認められないのは理不尽に感じますが、、、
話がそれましたが、多くの固定資産は経年で価値が減少するので、「減価償却費」に経費計上できます。
少額減価償却資産の特例
取得価額が1組10万円以上の資産は「消耗品費」への計上はできないのですが、取得価額が1組30万円未満の固定資産をその年に100%減価償却することは認められます。
こちらの記事のなかで説明していますので、詳細はこちらをご覧ください。
account-it-dentist.hatenablog.com
減価償却費の計算:投資用マンション編
固定資産といっても様々な勘定科目がありますが、ここでは投資用不動産として中古マンションを購入したケースを例に減価償却費を計算してみましょう。
取得価額の集計
取得価額は購入金額と説明しましたが、マンション購入では様々な費用を取得価額に含めることができます。(例なので数字の整合性がおかしい点はご了承ください。)
- マンション価格: 5000万円
- 仲介手数料: 275万円
- 不動産取得税: 150万円
取得価額は合計で5425万円になります。
固定資産税などの清算金は取得価額に含めることができます。
登記にかかった費用やローンに関連する経費は、取得価額に含めず当年の経費で処理できます。
取得価額を土地と建物に按分
売買契約書に土地と建物の金額が明記されている場合は問題ないのですが、それぞれの金額が明記されていない場合はいくつか按分する方法があります。
消費税がある場合は、消費税は土地にはかからず建物にしかかからないので、建物の価格を逆算できます。
個人から購入の場合は消費税はないので、固定資産税の課税標準の割合から按分する方法もあります。
ここでは、土地は6割で建物は4割で按分します。
土地は3255万円、建物は2170万円になります。
ここから本当は建物を建物本体と建物設備に按分するのですが、ここでは全額が建物本体とします。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 32,550,000円 | 土地 | 32,550,000円 |
現金 | 21,700,000円 | 建物 | 21,700,000円 |
何度も述べていますが、土地は減価償却できないので、建物の減価償却費を算出していきます。
耐用年数の算出
中古マンションなので、まず新築から取得時点までの経過年数を算出します。
経過年数は端数切り上げで10年だとします。
新築の住宅用鉄筋コンクリート(RC)造のマンションの法定耐用年数は47年です。
さきほど建物本体と建物設備を按分すると述べましたが、それは建物と設備では法定耐用年数が異なるためです。
取得時点での耐用年数 = 新築耐用年数 ー ( 経過年数 × 0.8 ) = 47年 ー ( 10年 × 0.8 ) = 39年(切り捨て)になります。
ちなみに、経過年数が法定耐用年数を超えている場合は、法定耐用年数の20%を耐用年数とできます。(例:47年×0.2=9年)
具体的な減価償却費の計算例
減価償却方法には定額法と定率法がありますが、1998(平成10)年4月1日以後に取得した建物に対しては定額法しか認められていません。
国税庁の減価償却率表から、耐用年数が39年の定額法による償却率は0.026です。
このため、建物の1年間の減価償却費は 21,700,000 × 0.026 = 564,200円 です。
減価償却費を計算してくれる便利なサイトもあります。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
建物 | 564,000円 | 減価償却費 | 564,000円 |
減価償却費の計算:車両編
こちらは、週末にプライベート使用する新車を購入したケースの減価償却費を計算します。
家事按分は 5日 / 7日 = 71.4% 計上とします。
取得価額の集計
自動車取得税や自賠責保険料などは、取得価額に含めずに当年の経費に計上できます。
- オプションも含めた車両本体: 298万円
- 納車費用: 2万円
取得価額は合計で300万円になります。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 3,000,000円 | 車両運搬具 | 3,000,000円 |
耐用年数の算出
新車なので経過年数(切り上げ)はありません。
中古車の場合は上記「投資用マンション編」を参照ください。
新車の普通乗用車の法定耐用年数は6年です。
取得時点での耐用年数も6年(切り捨て)になります。
具体的な減価償却費の計算例
建物と異なり、減価償却方法は定率法も認められます。
定額法ももちろん認められますが、ここでは定率法を使用することとします。
国税庁の減価償却率表から、耐用年数が6年の定率法による償却率は0.333です。
このため、新車の初年度の減価償却費は 3,000,000 × 0.333 = 999,000円 です。(家事按分前)
定率法は固定資産の期末残高に対して償却率をかけるので、2年目の減価償却費は ( 3,000,000 - 999,000 ) × 0.333 = 666,333円 となります。(家事按分前)
それ以降のシミュレーションはこのサイトで確認してください。
減価償却全額を経費計上できないので、家事按分します。
家事按分の仕訳については下記の記事を参照してください。
account-it-dentist.hatenablog.com
初年度は減価償却費は、999,000 × 71.4% = 713,286円 になります。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
車両運搬具 | 713,286円 | 減価償却費 | 713,286円 |
車両運搬具 | 285,714円 | 事業主貸 | 285,714円 |
次年度以降も同様に按分計上します。
借 方 | 貸 方 | ||
---|---|---|---|
車両運搬具 | 475,762円 | 減価償却費 | 475,762円 |
車両運搬具 | 190,571円 | 事業主貸 | 190,571円 |
この例では、償却方法に定率法を選択しましたが、個人事業主の場合は「定額法」を選択するほうが一般的でしょう。
建物編で説明したような例外はあるものの定額法か定率法どちらを選択することも認められていますが、償却方法の選択には届け出が必要です。
年度中に届け出ない場合、償却方法は前年に選択したもの、新たに申告する減価償却資産は税法の定めにより決まり個人事業主は定額法になります。
初年度に計上できる経費が多いメリットがあるため、届け出の手間をかけても定率法を選択する方もいるでしょうが、届け出不要の定額法を選択する方が大半だと思います。
今回は、固定資産と減価償却費の仕訳を解説しました。
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